リビングで交わされる、ふたりの小さな秘密
リビングには、空気よりも静かな沈黙が漂っていた。
外からかすかに聞こえる車の音、冷蔵庫のモーター音――そんな生活音さえ、今は異物のように感じるほど。
ソファの上、並んで座る翔子と秀斗の間には、身体の熱だけが確かに流れていた。
テーブルの上に置かれたラップトップが、じんわりと熱を放ち、薄暗い画面に艶やかな光を浮かべている。
再生されているのは、数日前に撮影された映像。
大地の呼吸、翔子の指、湿った音と、途切れそうな声。
全てが、あの夜の残像として蘇る。
秀斗の声は、画面から視線を外さぬまま、抑えた調子で漏れた。
「……どうだった、あの時」
翔子はグラスを軽く回しながら、映像の中の自分にそっと視線を投げる。
あの時の自分。静かに微笑みながら、大地をじりじりと追い込んでいく、もう一人の自分。
彼女の手つき、表情、吐息。そのどれもが、見せるためであり、導くためのものだった。
そして、ふっと唇をゆるめる。
「んー、びっくりしたよ。……あんなに早く出しちゃうんだもん」
冗談のように言いながら、その声にはちゃんと温度があった。
からかい、でも優しく。
翔子の本質的な“甘やかし癖”が、素直ににじんでいる。
「可愛かったなぁ……ふふ、大地くん、必死だった」
笑いながら、翔子はそっと脚を組み替えた。
スカートの裾が動き、膝から覗く太ももがキャンドルの明かりに照らされる。
秀斗の目が、ほんの一瞬だけそこに引き寄せられるのを、翔子は見逃さなかった。
だが、何も言わず、視線を再び画面へと戻す。
映像の中、大地は汗ばんだ顔で何度も瞬きをしていた。
快感に耐えきれず、けれど崩れ落ちるのを必死に堪えている。
あの目。あの震える唇。翔子は、きっと忘れられないのだと思った。
しばらくの沈黙のあと、秀斗がぽつりと呟いた。
「……最後、キスしてたよね。彼の、先に」
それは、問いというより確認だった。
ただ事実を確かめたいのではなく、“それはなぜだったのか”を知りたいという感情がにじむ。
翔子は少しだけ視線を逸らし、グラスを置いた。
そして、再び画面に目を戻しながら、小さな声で答える。
「うん。……ご褒美。頑張ったから……ああいうの、好きなんでしょ?」
恥じらいを混ぜながら、でも逃げることなく言葉を重ねる。
自分が何をしたか、どう見えるか。すべて分かった上で、翔子はあえてそう言った。
それは、単なる奉仕でも、演技でもなかった。
ごく自然な、自分の「甘さ」の一部としてのキスだった。
沈黙が落ちる。
画面では、息を荒げながら感謝を呟く大地の声が、微かに聞こえる。
やがて、秀斗は静かに視線を画面から翔子に移した。
「……次も、見せてほしい。もっとちゃんと、翔子がしてるとこ」
その声には、単なる興奮ではなく、妻の中に潜む“別の顔”をもっと見ていたいという切なる願いが滲んでいた。
翔子はその視線を受け止めながら、夫の手の甲に自分の指を重ねる。
そのまま、ゆっくりと耳元に顔を寄せて、こう囁いた。
「うん。……でも、次はあなたにも、少し意地悪するかもね」
その言葉は甘い毒だった。
だが、夫の瞳は、まるでそれを待ち望んでいたかのように、わずかに潤んでいた。
「見せる構図」をお願いする秀斗
次の撮影――内容は、翔子に任せるつもりだった。
そのほうが翔子の魅力は自然に滲む。
だが、この夜、秀斗の中にはどうしても叶えたい「ひとつの構図」があった。
映像を見返すうちに、どうしても頭から離れなかった場面。
それは、誰かのためではない。自分だけの、極めて個人的で、確かな欲望だった。
「……ひとつだけ、お願いがあるんだ」
そう切り出した声は低く、けれど確信を持っていた。
「大地は画面の右側。左を向いて立たせて。翔子は……左にしゃがんで、大地の股間の高さに顔を近づけてほしい」
一言ひとこと、丁寧に構図を描くように言葉を紡いでいく。
翔子は黙って聞いていたが、その瞳はどこかいたずらっぽく細められていた。
「……ペニスのすぐ前に、翔子の顔がくる位置で」
秀斗の声はわずかに震えていた。だが、それは迷いではなく、昂ぶりだった。
「そしてその顔が、カメラ――つまり、俺に向いてる構図で」
しん、と空気が止まった。
翔子は数秒の間を置いてから、ふっと笑った。
「……あなた、ほんとに、そういうの好きだよね」
その笑顔は、どこか優しくて、呆れているようで、嬉しそうでもあった。
まるで、“そこまで私に期待してくれるんだ”とでも言いたげに。
そして、静かにグラスを置くと、秀斗の頬に片手を添えた。
指先はやわらかく、けれどぞくりとするほど冷たくて、くすぐったい。
「わかった。……ちゃんと見せてあげる。その構図。私の顔と……彼の硬さ、並べて」
その声は、甘く濡れていた。
見られることを許す悦びと、主導権を手放さない余裕。
翔子らしい“演出”が、すでに始まっていた。
ケーキ屋のバックヤードで、そっと囁かれた「お願い」
昼過ぎのケーキ屋。閉店前の静かな時間帯は、ほんの少し、空気がゆるむ。
照明を落とした店内の奥――冷蔵庫のコンプレッサー音だけが響くバックヤードに、翔子の靴音が軽く響いた。
しゃがんで仕込みの器具を洗っていた大地の背中に、翔子の声がふわりと降り注ぐ。
「ねぇ、大地くん」
その声はいつも通り、優しく穏やか。
けれど今日のそれは、ほんのわずかにだけ、空気の“温度”が違っていた。
彼女の気配を感じ取った大地の手が、ほんの少し止まる。
「この前の映像、ありがとう。すごく……よかったよ」
ふいに言われたその一言に、大地は肩をびくりと揺らす。
耳がみるみる赤く染まり、俯いたまま、何も言えない。
「……いえ、あの、そんな……」
か細く絞り出すような声。
視線は翔子に向けられず、指先が落ち着かずにバットをなぞっている。
翔子は微笑んだまま、冷蔵庫の前に立つと、エプロンの裾を軽く整える。
その仕草に、さりげなく太もものラインが浮かぶ。
「また、ちょっとだけお願いしてもいいかな。次は……ちょっと、近めで」
明るく言ったその言葉に、大地の指先がぴたりと止まる。
そして、ゆっくりと顔を上げかけ――翔子の視線と、ふっと交わる。
翔子はその目を見て、にこっと笑う。
「……カメラの前に、私がしゃがんでる構図なんだけど」
その一言で、大地の表情が硬直する。
だが、翔子はまるで気づいていないふうを装い、さらりと続けた。
「あなたが立ってて、私は目の前にいる感じ。うん、ちょっと恥ずかしいけど……たぶん、綺麗に撮れると思うの」
語尾まで穏やかで、仕事の相談のような自然なトーン。
けれどその声には、ごくわずかに、確かな“色気”が混じっていた。
それが、意図的なものかどうか――
大地は判断できなかった。だが、自分の心臓がわかりやすく高鳴っているのは確かだった。
「……は、はい。わかりました」
精一杯、丁寧に返したつもりだった。
けれど自分の声が少し上ずっていたのを、大地自身が一番自覚していた。
その返事に、翔子はうれしそうに小さく目を細める。
「ありがとう」
そして、ほんの軽く、頭を下げた。
その仕草だけで、大地の顔はもう一度、真っ赤に染まっていた。
思わず息をのむ膨らみ、翔子の視線がとらえたもの
翔子の自宅リビングは、やわらかい間接照明に包まれた静かな空間だった。
落ち着いたトーンのソファと観葉植物、少し低めのテーブル、その上にはワイングラスと小さなアロマディフューザーが置かれている。
窓際には、厚手のカーテンとその隙間から差し込むわずかな光。照明と自然光のバランスが、部屋全体にやさしいグラデーションを作っていた。
カメラは三脚に固定され、やや低めの位置からリビング中央をとらえるようにセットされている。
背景にソファが写る構図は、まるで舞台のように計算されていた。
どこにでもあるような部屋。けれど、そこに座る翔子がいるだけで、空間に意味が生まれる。
そこは、生活の場でありながら――確かに“撮られるための場所”になっていた。
すでにカメラは回っていた。
そのレンズがとらえていたのは、ズボンを履いたまま、左を向いて立っている大地の下半身。
わずかに力の入った手の甲、ぴんと伸びた背筋――それだけで、彼の緊張が伝わってくる。
「……あの、翔子さん」
小さな声が、沈黙を割る。
「これ、カメラ……近すぎませんか?」
声はかすかに震えていた。戸惑いと、どうしようもない興奮が入り混じっている。
大地自身も、その動揺を隠せていなかった。
翔子はしゃがんだまま、大地の腰の高さに顔を添えるようにしながら、上目遣いで彼を見上げた。
唇の端をすこしだけ緩めて、軽く笑う。
「うん。……私も、ちょっと恥ずかしいよ。でも――がんばろ」
その“がんばろ”は、明るく響いた。
照れを隠すように。大地を安心させるように。
そして、ほんの少しの茶目っ気を滲ませて。
彼女の手が、ゆっくりと伸びていく。
「ちょっとだけ、脱がせていい?」
丁寧に声をかけながら、指先がズボンのウエストをそっととらえる。
静かに、慎重に、膝まで下ろされていく生地。
パンツ越しに、はっきりと浮かぶ膨らみ。
そのシルエットだけで、尋常ではないサイズがうかがえた。
「ふふ……触ってもいい?」
柔らかな声とともに、翔子の指がパンツの上からそっとなぞる。
指先が軽く押し当てられただけで、大地の腰がぴくんと反応した。
翔子はその動きに小さく笑い、次の瞬間、ゆっくりとパンツのゴムに指をかける。
その動作さえ、どこか礼儀正しく、優しかった。
静かに――でも確かに。
パンツが滑り落ちる。
ボロン。
重みを持った音とともに、太く、長く、そして中途半端に勃ちかけた肉棒が露わになった。
下を向いたそれが、ゆっくりと持ち上がるように、翔子の前で揺れる。
翔子の目が、一瞬だけ見開かれる。
呼吸が止まりかけるような間。
「……っ、やっぱり、大きい……」
それは、女としての本音だった。
彼女の瞳が、明らかに光を含んでいた。
目の前のそれを、どう“見せて”いくのか。
翔子の中で、次の一手が静かに組み上がっていく――そんな気配があった。
唾液を垂らして滑らせながら、カメラ越しに挑発する翔子
翔子は少し目を見開いてから、レンズの向こう――夫である秀斗に、ふっと視線を送った。
しゃがんだ姿勢のまま、あどけなさを残した笑顔を浮かべ、唇をわずかに尖らせる。
そのまま、顔を股間に近づける。
ぴくりと跳ねた亀頭に、そっと息をかけ――そして、わざと音を立てて舌を突き出す。
「ふふ……ちょっと、乾いちゃってるね」
そう言うと、翔子はわずかに首を仰け反らせて、舌先を大地の亀頭のすぐ上に持っていく。
そして――
「ん……」
ちゅっ。と音を立て、口をすぼめたかと思うと、次の瞬間――
とろり。
翔子の舌先から、粘り気のある透明な唾液が、糸を引きながらゆっくりと垂れた。
その滴は、狙いすましたように亀頭の先に落ち、そこからゆっくりと竿を伝って滑り落ちていく。
ぬる……っ。と肌の上で混ざり合う唾液と体液。
翔子はその様子を、うっとりと目を細めながら見つめていた。
「……ん、これで、滑りやすくなったね」
手を再び添え、唾液の濡れた表面をぬちゅ、ぬちゅっ……と丁寧にしごき始める。
右手で根元から中腹を包み、左手でカリの縁をなぞるように。
玉袋は指で持ち上げられ、くすぐるように撫で回される。
ぬめった音が、リビングの静寂にいやらしく響く。
翔子は舌先で自分の唇を一度なぞり、再びカメラへと目線を送った。
その目は、完全に“見せるための女”の顔をしていた。
「……どう? よく見える?」
唇の端がわずかに上がる。
そのまま、片手を一瞬だけ止めて、唾液の濡れた亀頭を指先でくるくると転がす。
ぬる、ぬちゅっ、ぬちっ……
「あなたも……こうされたい? 私の唾で、ヌルヌルにして」
言葉のひとつひとつが、甘く湿っていた。
そして――唾液で濡らされた巨根は、今や完全に限界まで張りつめ、翔子の指の中で熱を帯びていた。
その熱を感じるたびに、翔子の目の奥が微かに潤んでいく。
だが、それでも目線はカメラから逸らさず、ひとこと――
「……でも今日は、見るだけで我慢してね?」
その挑発は、夫の胸に、静かに火をつけていた。
翔子はうっとりとした目でそれを見つめ、再びカメラへと視線を送った。
「ねぇ、こんなふうに……見せられるの、好きなんでしょ?」
唇を湿らせながら、挑発するように微笑む。
右手は、硬くなった竿を根元からゆっくりと擦り上げ、カリの裏筋を親指で丁寧になぞる。
肉の柱がびくりと跳ねるたび、翔子の指はより深く絡みつき、亀頭の先にじんわりと滲んだ透明な蜜をすくう。
「ほら……先っぽ、ぬるぬるしてきた」
声が熱を帯びる。
翔子の動きはさらに滑らかに、淫らに変わっていく。
左手は玉袋を包み込むように揉み続け、親指で裏から軽く押し上げる。
同時に右手は、亀頭を円を描くように刺激しながら、時折ぎゅっと根元を締めつけた。
ぬちゅ……ぬちゅっ……ぬちゃっ……
湿った音がリビングに響き、大地の息が荒くなる。
翔子はちらりとカメラを見る。
「ふふ……まだ出しちゃだめだよ?」
その言葉に、指の動きはわずかに速まる。
だが、出させる気はない――ギリギリまで焦らし、秀斗に“見せる”のが目的だった。
そして――
「……こんなの、見たことないくらい……逞しくて綺麗」
心からそう思ったのだろう。
翔子の目は完全に、とろけていた。
だが、だからこそ、その視線はカメラ越しの夫に向けられたまま――挑発的に、誇らしげに、強く、揺るぎなく。
それは、甘い笑顔に包まれた、静かな火種だった。
高鳴る熱と放たれる衝動──翔子が魅せた“最後の一滴”
翔子の手の中で、大地のペニスは確かに、生き物のように脈打っていた。
根元を包み込む指先にまで、熱と拍動が伝わってくる。
太く、硬く、艶を帯びてそそり立つそれは、もう限界寸前の熱を帯びていた。
「……もうすぐ、かな」
彼女はしゃがんだまま、視線をそらさず亀頭を見つめる。
そして、ほんの一瞬、顔だけをカメラに向けた。
――来るよ?
目がそう語っていた。
そのまま、彼女の手が動く。
滑らかに。的確に。指の圧を変え、亀頭の裏を撫でながら、しごきのリズムをわずかに加速する。
大地の腰が反応する。
腰が浮きかけ、息が詰まり、睾丸がきゅっと引き上がる。
――ビュッ!
最初の一発は、思わぬ勢いだった。
翔子の手の中、限界まで膨らんだ亀頭の先から、白濁が真っ直ぐ空を切り、彼女の前髪を弾いた。
「……っ!」
わずかにきょとんとした表情。だが、手は止めない。
むしろ、そこからが“本番”だった。
――ビュルルッ……ビュル、ピュッ……
次々と溢れるように飛び出す精液が、翔子の肩、首筋、そしてTシャツの襟元を濡らす。
温かく、重たい感触が、肌にじわりと染みていく。
翔子はそれを、止めようともしなかった。
そのまま、うっとりとした表情で、指先にまとわりつく白濁をゆっくり撫でる。
ぬるり。とろり。
親指で亀頭の先端をなぞると、わずかに残っていた粘ついたしずくが、肌を伝って落ちていった。
「……すご。そんなに出るんだ」
その言葉には、驚きと、どこか“嬉しさ”のような響きがあった。
翔子は、唇にかかった髪を耳にかけ直し、首筋に落ちた白いしずくを指先ですくい取る。
そのまま、それを見せるように、カメラに視線を送った。
「あなたにも……こんなにかけられたこと、あったっけ?」
笑みは穏やかで、でも明らかに挑発だった。
翔子のTシャツには、白濁が斑点のように滲んでいた。
その染みの中心を、彼女は両手でそっと押さえる。
「熱、残ってる……」
それは、ただの実況ではなかった。
愛撫と放出、すべてを“見せる”ことに成功した女の余韻。
その目線が最後に向いたのは、やはり――カメラだった。
「次は……あなたの番、かな?」
挑むように。甘やかすように。
その言葉は、しっとりと部屋に落ちた精液の香りとともに、ゆっくりと空間を染めていった。
射精のあと、部屋に残った熱とぬめり──翔子の静かな余韻
しばらくの間、何も聞こえなかった。
ただ、大地の乱れた呼吸と、ペニスの根元からまだ僅かに垂れている白濁の滴が、ゆっくりと落ちる音だけが静かに響く。
翔子は、その場を離れなかった。
しゃがんだまま、指に絡みついた粘りを見つめていた。
まだぬるくて、少しだけ香ばしい匂いが漂っている。
Tシャツの胸元には、しっかりと飛沫が染みついていた。
下着まで届いたかもしれない――そんな感触が、肌にじわじわと広がっていく。
髪にも、額にも、ぬめりが残っていた。
けれど翔子は拭こうとせず、そのままにしていた。
「……けっこう、かかったなあ」
ぽつりと、独り言のように呟いた声は、どこか誇らしげでもあり、ちょっとだけ恥ずかしそうでもあった。
ふと視線をあげると、カメラのレンズがまっすぐこちらを向いている。
翔子は微笑んで、そのまま体をそっと起こした。
立ち上がると、Tシャツの裾が太ももに張りついた。
湿った布地がぺたりと肌を吸い、そこにまで跳ねていたことを、あらためて知る。
ゆっくりと指先で、それを剥がすように撫でながら、もう一度、カメラを見た。
「……見てた?」
問いかけるような、その目線。
すでに責めは終わっているのに、その視線だけは、まだ“見せている”。
「私、……嬉しい。こんなにいっぱい出してくれて」
ほんのわずかに照れをにじませて、でも堂々と。
翔子は、Tシャツの襟元をそっと引っ張って、汗と白濁で濡れた肌を少しだけのぞかせる。
「……拭くの、あとでいいよね。もうちょっとだけ……このままにしておきたい」
その声は、ごく自然で、ごく私的だった。
けれど、まぎれもなく“撮られる女”の顔をしていた。
レンズの奥にいる夫にだけ許された、ほんの一瞬の、甘い“後”。
翔子はぬるついた指先を、唇に持っていき――
何も言わず、ひとつ、軽くキスを落とした。
静けさのなか、翔子はまだしゃがんだまま動かなかった。
手のひらに残る精液はすっかり温度を失いかけていたが、その感触は生々しく掌にこびりついていた。
彼女は指先をゆっくりと拭うように動かしながら、大地のペニスを見つめた。
先ほどまで脈打っていた肉の柱は、わずかに力を抜きながらも、まだ堂々とそそり立っていた。
その亀頭の艶を、翔子はどこか愛おしげに見つめたあと――ふいに、カメラのほうを見た。
目線が、レンズにぴたりと合う。
その瞬間、表情が変わる。
まるで、そこに“彼”がいるとわかっていたかのように。
ゆっくりと唇を湿らせた翔子は、もう一度、視線だけでカメラに問いかける。
――見てるでしょ?
目が、そう語る。
そして、ほんの一呼吸の間を置いて、翔子は再び大地の股間に顔を寄せた。
指先でそっと精液をまとめ、左右の手で軽く包み込むように整えると――
ほんの一瞬、迷いもなく、ぴくり、とまだ敏感な反応を残したままの亀頭に、そっと唇を重ねる。
音を立てず、やわらかく、静かに。
まるで“見せるためだけ”に施された一瞬の接吻。
それは愛撫ではなく、礼儀のようでもあり――
カメラの向こうにいる、秀斗への無言の挑発のようでもあった。
唇を離す前に、翔子はそっと目だけを上に向ける。
カメラ目線のまま、微笑む。
「……ちゃんと、見えた?」
声には出していない。
けれど、その問いかけは確かに“届いて”いた。
翔子の頬に一筋、垂れ残った精液がゆっくりと滑り落ちていく。
彼女はそれを拭おうともせず、指先で亀頭を一度なぞり、もう一度カメラを見た。
笑顔の奥に、ほんのわずかな熱が滲んでいる。
「あなたのために……してあげたんだよ?」
言葉にはしないからこそ、伝わる温度。
それはカメラの向こうにいる“夫”だけに許された視線だった。
「出しすぎだよ、もう……」タオル越しの、ちょっと意地悪な甘さ
肩にかかった白濁を軽くぬぐったあと、翔子はふと、自分の髪に触れた。
前髪のあたりに、少し粘り気のある感触が残っている。
小さくため息をついて、近くにあったタオルを手に取る。
「……ちょっとだけ、ごめん。拭いてくれる?」
そう言って、大地にタオルを差し出した。
彼は目を丸くしながら、それを受け取る。
「えっ、ぼ、僕がですか?」
「そう。だって、あなたが……出しすぎなんだもん」
翔子は、わざとらしく唇をすぼめて、少しだけ目を細めた。
その視線に、大地の顔がみるみる赤くなる。
目を泳がせながら、そっと翔子の前髪にタオルをあてる。
「優しくね……引っ張ると痛いから」
そのひと言に、ふたりとも思わず小さく笑った。
声はどちらも控えめで、ささやきに近かった。
けれどそのやりとりのなかに、妙に甘い空気が漂っていた。
「……ほんと、すごかったよね。量も、勢いも」
「す、すみません……っ、僕、そんなつもりじゃ……」
「ふふ、謝ることじゃないよ。うれしかったし……」
翔子はそっと笑って、大地の手元を見つめる。
「でも、ちょっと……誇らしげに見えたなぁ、あなた」
「え、そ、そんな……」
「……うん。かわいかった」
その一言に、大地はもう言葉を返せなかった。
翔子は、拭き終わった髪を手ぐしで整えながら、もう一度、ほんの小さく笑った。
射精のあとの空気は、不思議なくらい静かで、温かかった。
熱は引いたはずなのに、ふたりの距離だけは、まだ近いままだった。
「もう一回出してみる?」──甘く揺らぐ誘惑と、翔子の冗談
髪を優しく拭ってもらい終えた翔子は、まだ手にタオルを持ったまま、ふと大地の顔を見上げた。
その視線は、どこかいたずらっぽく、でも熱を帯びているようにも見えた。
そして、すっと上半身を少し近づける。
「ねぇ……もう一回、出してみる?」
声はごく自然で、ごく静か。
まるで「おかわりいる?」とでも言うような調子だった。
けれど、言葉の内容はまったく違う種類の甘さだった。
「……えっ」
大地は瞬時に固まる。
頬は真っ赤、目はきょろきょろと揺れていた。
けれど、その反応の中には――確かに“期待”が混ざっていた。
ほんの少しだけ、彼の下腹部が反応しているのを、翔子は見逃さなかった。
「ふふ……うそだよ、冗談」
翔子は、くすっと笑って、タオルで自分の肩をぺしっと軽く叩く。
「そんなにすぐ元気になったら、私の方がびっくりしちゃう」
けれど、その声には明らかにからかいの色があって、
目の奥には、“あながち冗談だけじゃない”ような光がちらついていた。
「……でも、もしほんとにもう一回出したくなったら――」
少しだけ翔子は顔を寄せて、耳元でささやくように言った。
「言ってくれれば、考えてあげてもいいよ?」
それは、いたずらな微笑みと、甘えを混ぜた「誘惑未満」のやさしさ。
翔子らしい、絶妙な距離感だった。
そしてその距離に、大地はまた、何も言えなくなっていた。
夜、ふたりだけのベッドで交わす言葉──愛を確かめる温度
夜。
ふたりだけのベッドに、明かりはほとんどなかった。
窓から差し込むわずかな街灯の光が、シーツの上に淡く影を落としている。
並んで座る翔子と秀斗のあいだには、まだあの映像の余韻が残っていた。
タブレットに映る画面には、さっきまでの出来事が、静かに、しかし強烈に焼きついている。
「……最後、キスしてたよね」
秀斗の声は低く、どこか遠慮がちだった。
けれど、そこに込められた感情は、静かに重かった。
翔子は少しだけ笑みを浮かべ、タブレットから視線を外す。
まるで、自分の中の何かを守るように、小さく息を吐いてから言った。
「うん。なんか……ちゃんと“ありがとう”って言いたくなって」
その言葉に、映像では見えなかった翔子の“心”が、ふわりと浮かび上がる。
秀斗はしばらく黙っていた。
そして、ごく小さな声で言った。
「……俺にも、してほしいな」
そのひと言に、翔子はふと目を丸くし、次に、少しだけ首をかしげた。
そして――そのまま、ゆっくりと微笑んだ。
「あなたのなら……全部、受け止めてあげる」
その声は優しく、静かで、けれどどこまでも真っ直ぐだった。
見せることも、許すことも、挑むことも、すべて――あなたに愛されるため。
ふたりにしか届かない、その言葉。
秀斗は翔子の手を握った。
細くて、柔らかくて、でも芯のあるその手を、そっと引き寄せる。
翔子も、何も言わずにそのぬくもりに応える。
額と額が触れ合う。
静かに、鼓動が溶け合っていく。
やがて、ふたりの唇が重なる。
深くも激しくもない。
ただ、お互いの呼吸を確かめ合うような、ゆったりとしたキスだった。
そこにあるのは、映像では決して映らない温度。
レンズの外でしか感じられない、ふたりだけの愛のかたち。
キスが終わっても、手は離れなかった。
ふたりは寄り添ったまま、長く、長く、そのまま沈んでいった。
翔子の頬に、微かな熱が残っていた。
秀斗の胸の中には、確かな誇りと、深い安心があった。
そして夜は、ふたりの間に静かに降りていった。
もうカメラは回っていない。
それでも、いちばん大切なものが、ここに記録されていた。
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