翔子の最初のプレイ【前編】

ホットパンツにチューブトップの健康的な女性

夫婦の静かな夜、そして提案

夜のキッチン。
食事を終えた翔子は、赤ワインをグラスに注ぎ、ダイニングの椅子にそっと腰を下ろした。

カウンター越しに座っていた秀斗が、テレビの音をリモコンで絞りながら、ふと口を開く。

「なあ、翔子」

「ん?」

グラスを唇に運びながら、翔子が短く返す。

「大地ってさ……翔子のこと、好きなんじゃないか?」

翔子はグラスを置き、ワインの赤が底に残るのを見つめたまま、少し間を置いた。

「……気づいてるよ。あの子、目が真っ直ぐすぎるから」

秀斗は苦笑した。

「だよな。俺も、何となくそんな気がしてて」

翔子は黙ったまま、指先でグラスの縁をなぞった。

秀斗は続ける。

「嫌じゃなければなんだけど、大地にさ。翔子の撮影、頼んでみようと思うんだ」

「撮影……?」

「うん。イメージビデオ風っていうか、可愛くて綺麗な翔子を、ちゃんと撮ってもらいたい。俺のために」

翔子は目を伏せた。
しばらくの沈黙が、食器棚の時計の音だけを際立たせた。

秀斗は真剣な目で翔子を見た。

「もちろん、翔子が嫌なら無理にとは言わない」

翔子は小さく首を振った。

「……嫌じゃないよ。大地くん、嫌いじゃないし。…….あの子、真面目だし、変なことしないと思う」

翔子はグラスを置き、ソファの背にもたれかかったまま、大地の顔を思い浮かべた。

ケーキ屋でアルバイトをしている大地は、映画制作の専門学校に通う学生だった。おとなしくて真面目で、目立たないタイプ。だけどその視線だけは、時折まっすぐすぎて、少しだけ困ることがあった。

包装用のリボンを選んでいたとき、冷蔵ショーケースを磨いていたとき。ふと顔を上げると、彼が自分を見ていて、そして慌てて目を逸らす――そんな瞬間が何度かあった。

最初のうちは、若い男の子によくある憧れの一種だろうと思っていた。
けれど最近は、視線の奥にある感情が、ただの一方的な好意だけじゃないことにも気づいていた。

何より、夫の秀斗がその大地と今では普通に言葉を交わす仲になっているというのが、不思議だった。

時々店まで迎えに来る秀斗と、大地は顔見知りだった。店長主催のBBQでは同じテーブルを囲み、その後も何度か飲みに行っている。翔子が知らないところで、ふたりの間に自然な信頼関係のようなものができていた。

あの子が自分に向ける気持ちを、秀斗が気づいていないはずがない。
それでも、こうして名前を出したということは――翔子の胸に、小さく波紋のような感情が広がっていた。

「……控えめで、優しそうで。あたし、ああいうタイプ、昔から嫌いじゃないんだよね」

「うん、知ってる」

翔子は苦笑した。思わず、グラスのワインを少し飲み干す。

「でも、あたしに気があるって分かってて撮影って、やっぱりちょっと迷うよ。もし変な空気になったらって……」

「俺がちゃんと線引きする。翔子が嫌がることは絶対させない」

秀斗のその一言で、翔子の中で何かがふっと決まった。

「……じゃあ、やってみる。あなたが喜んでくれるなら」

その声は穏やかで、でも少しだけ緊張していた。

グラスを置いた翔子は、ゆっくりとソファの背にもたれかかった。

「……こういうの、いつかやるって話してたよね」

「うん」

秀斗が頷く。その表情に迷いはなかった。

「その“いつか”が、今なんだね?」

「そう思った。タイミングって、たぶん大事だから」

翔子は天井を見つめる。ぽつんとした声が静かに続く。

「あなたの趣味、ちゃんと分かってるよ。
あたしが、誰かに……恋人みたいに振る舞うのを、見ていたいんでしょ?」

秀斗は言葉を返さず、少しだけ目を細めてうなずいた。

翔子は一度だけ目を閉じ、静かに息を吸い込んだ。

「……じゃあ、ちゃんとやるよ。ちゃんと、恋人みたいに見えるように」

翔子がそう言うと、秀斗はうれしそうに微笑んだ。

「ありがとう、翔子」

グラスの中の赤が、静かに揺れていた。

翔子と大地、撮影の約束

その日、ケーキ屋の仕込みが一段落した午後の厨房。
大地が器具の片付けをしていると、翔子がエプロン姿のまま声をかけてきた。

「ねぇ、大地くん」

「はい?」

「ちょっとだけ、いい?」

翔子は穏やかに笑いながらも、普段よりもほんの少し近い距離で立っていた。

大地が手を止めると、翔子は手を軽くふきながら続けた。

「夫がね、“翔子の映像を撮ってほしい”って。綺麗に、可愛く……って」

「僕が……撮るんですか?」

「うん。あなた、映画の学校に通ってるって聞いたし、映像、撮れるよね?」

翔子は少し首をかしげながら、大地の顔色をうかがった。

「まぁ、一応は……授業でカメラ回したりはしますけど……本格的なのじゃないですし」

「本格的じゃなくていいの。
むしろ、普段から私のことをちゃんと見てくれてる人に撮ってほしいなって、思ったから」

その一言に、大地の胸が詰まる。

翔子は、大地の目の揺れを見つめたまま、目元だけでやさしく笑みを浮かべた。

「自然の中でね、ちょっと歩いたり、こっちを振り向いたりするだけの……イメージビデオっぽいものになると思うの」

「イメージ……ビデオ……ですか」

「うん、そんな大げさじゃない。服もちゃんと着るし。……ね?」

そう言いながら、翔子は胸元のボタンをひとつ外しかけて――
すぐに何事もなかったように留め直した。

白いインナーが一瞬だけ見えたのは、偶然か、それとも――意図的な挑発だったのか。
翔子の表情は変わらないまま、その意味を曖昧にした。

「ふふ、大丈夫? 撮る前からそんなに緊張してたら、どうなるのかしら」

くすっと声に出さず、翔子は口元を少しだけほぐした。

一歩だけ、大地の方へ踏み出し、視線を静かに合わせる。

「……撮ってくれる? わたしのこと」

その声は、囁くようでいて、どこか切実だった。

「……はい」

大地の返事は、少しかすれていた。

翔子はそれだけで、胸の奥にじんわり広がる安堵を感じながら、満足そうにまぶたを閉じかけた。

そしてひと言だけ、心の中で繰り返した。

(“夫のため”だから)

けれど、胸の奥にくすぶる小さな高揚は、
それだけじゃ説明できない熱を持っていた。

渓流での初撮影

渓流の水音が、風のざわめきと重なりながら静かに流れている。
初夏の陽射しはまだ優しく、木々の葉がちらちらと光を反射していた。

翔子は最初、薄いリネンのワンピース姿で現れた。
ナチュラルなメイクに日除けの帽子。

カメラを構える大地は、一瞬その姿に見惚れて、録画ボタンを押すタイミングを忘れていた。

「ふふっ、緊張してる?」

翔子が笑いながら声をかける。
大地はぎこちなく頷いた。

「だ、大丈夫です。あの……撮りますね」

ワンピースの裾が風に揺れ、翔子は足を組み替えるようにして岩の上に腰かけた。
ポーズというより自然体で、こちらを穏やかに見つめているだけ。

その視線を受け止めた瞬間、大地の心臓がわずかに跳ねた。
喉が渇き、カメラを握る指先にも力が入る。

録画を始めたまま、彼は無言でカメラのアングルを少しずつ調整する。

ひと通り撮り終えたあと、翔子はすっと立ち上がった。

「ねぇ、大地くん。ちょっと着替えてもいい?」

「え……あ、はい!」

ワンピースの下から、ホットパンツとチューブトップが覗いた瞬間、
大地は思わず息を呑んだ。

ホットパンツとチューブトップで振り返る女性

翔子は木陰で素早く着替えを済ませ、何事もなかったように戻ってくる。

「どう? ちょっとイメージビデオっぽくなったかな」

翔子はそう言いながら、帽子のつばを指でなぞり、少しだけ横目で大地の反応をうかがった。

冗談めかしていたが、その視線の奥には、わずかな緊張と期待がにじんでいた。

大地は「すごく……似合ってます」と小声で返すのが精一杯だった。

翔子がカメラの前で動き出す。
光を受けた肌が、ゆっくりと輪郭を変えていく。

岩場にしゃがみ、片膝を立てた姿勢でこちらを見上げる。
その目線に、どこか甘えるような柔らかさがあった。

腕に顎を乗せた体勢が自然と胸元を緩ませ、視線がそこに吸い寄せられる。
風が髪を揺らし、頬に影を落とす。

翔子はふいに背を向けると、ホットパンツの裾に指を添え、砂を払う。
その動作が腰の曲線を強調し、自然とヒップが突き出される。

濃い影がラインをなぞり、レンズ越しにその立体感が際立つ。

振り返る横顔に、少しだけ含み笑いのようなものが浮かんで見えた。
わざとか、無意識か――どちらにしても、目が離せなかった。

次の瞬間、両腕を上げて髪を束ねる。
布地が持ち上がり、胸の下縁と肋骨のラインが光の加減で透けるように際立つ。

呼吸とともに緩やかに動く胸が、いつ録画を止めればいいのか、大地に判断を迷わせた。

翔子が岩場に四つん這いになり、水辺に手を伸ばす。
指先ですくった水を顔に当て、濡れた髪をかき上げる。

その動きに合わせて背中から腰へ、そしてヒップの丸みまでがしなやかに揺れる。

無防備なのに、なぜかすべてが見透かされている気がする。
大地はカメラ越しに、なめらかに動く背中や腰の形を追いながら、息を止めていた。

「……ねぇ、大地くん」

翔子が、不意にまっすぐ立ち上がり、ゆっくり距離を詰めてくる。

その目がまっすぐ大地を捉え、どこか試すような光が宿っていた。

告白と、揺れる想い

「私のこと……好きでしょ?」

その声は風の音よりも静かで、でも真っ直ぐに響いた。

大地はカメラを下ろし、しばらく黙ってから、小さく、でもはっきりと答える。

「……好きです」

翔子は微笑んだ。
その笑みには、少しだけ何かを見透かしたような、余裕とやさしさが入り混じっていた。

「ふふっ、ありがと」

それだけ言うと、彼女はふたたび岩場へ戻り、
また何事もなかったようにレンズの前でポーズを取る。

その後ろ姿を、大地は録画ボタンを押し直したまま、しばらく無言で見つめていた。

テレビ画面には、澄んだ渓流と翔子の笑顔が映っている。

チューブトップにホットパンツ姿。
白地に淡いブルーのラインが入ったトップが、陽光にきらめき、肩の丸みをやさしく際立たせている。

脚にフィットするデニムのショートパンツはカジュアルで、
膝上の肌が健康的に輝いていた。

帰宅後の夫婦のやり取り

清潔感はある。たしかに綺麗に撮れてる。
色気は……ちょっとだけ。

ソファに座っていた秀斗が、ひととおり映像を見終えて、やや真顔で言った。
一瞬、画面に残る余韻に見入ったあとで、首を傾げる。

「……え、これで終わり?」

翔子は隣でクッションを抱きながら、ちょっと笑って首をすくめた。

「うん、どうだった?」

「いや……綺麗だよ? 可愛いし。でも……なんか、“健康的すぎない?”」

「ふふ。あなた、なんか期待してたでしょ」

「してたよ。てっきり……もうちょっと胸元アップとか、お尻寄りのカットとか……」

「……全部カットされてたね、見事に」

「え、マジで? 撮ったの?」

翔子は肩をすくめて笑った。

「うん。ちょっと攻めすぎたかなーって思いながら、四つん這いとか、髪上げたりとか……やったよ」

翔子はそう言いながら、視線を逸らし、クッションをぎゅっと抱き直した。
照れたような笑みが口元に浮かび、どこか気まずそうに眉をひそめる。

「は? 見せろよ、それ」

「無理だよ。大地くんが“これはまずい”って切ったんだもん。真面目だからね、あの子」

「くっそ……大地、真面目かよ……!」

翔子は大笑いしながらソファに倒れ込む。

「ほんと、忠実に“奥さんを綺麗に撮る”ってコンセプト守ってた。完璧に“無難”!」

「でも……なんか……悔しい。おれだけ見れてないって、地味にずるくない?」

秀斗はそう言いながら、わざとらしくソファに背を倒し、手の甲で額を押さえてみせた。

「でも、仕方ないよね。“夫のための映像”のはずだったのに、肝心の夫がいちばん“薄味”バージョン見てるっていう」

翔子は笑いながら、少しだけ頬を赤らめた。

「……わたしね、けっこう頑張ったんだよ、あの時。はじめての演技だったし、ちょっと調子に乗っちゃって」

「調子に乗ったやつ、全部切られたの? ……あー、惜しい」

「ふふっ。でもね、ちょっとクセになりそうだったかも」

そう言って笑い合うふたりの間には、変な重さはなかった。

翔子の胸の奥には、ただ――ほんの少しだけ、次の撮影が待ち遠しくなっていた。

再びケーキ屋にて/自宅への誘い

午後の店内は静かだった。
ランチタイムを終えたあと、テーブルを拭きながら翔子がふと口を開いた。

「ねぇ、大地くん。あの映像……仕上がり、思ったより爽やかだったね」

「えっ……はい。あれ、ちょっと迷ったんです。どこまで使っていいのか……」

大地は手にしていたトレーを置き、バツが悪そうに笑った。

「ほら、翔子さん……その、けっこう大胆なカットとか……あって」

「あー……やっぱりカットしたんだ?」

翔子は、あっさりとした口調で笑う。
でも、その笑いの奥に、大地が気づけないような“くすぐったさ”があった。

「はい。なんか、これ旦那さんに見せる映像なんだよなって思ったら……ちょっとビビって」

「ふふ、真面目ね。でも、ありがとう。ちゃんと綺麗に仕上げてくれて」

「いえ……こちらこそ、あんなすごい素材を……」

大地は咳払いして、下を向いた。

翔子は、布巾を折りたたみながら、何気ない風を装って言葉を続けた。

「ねぇ、大地くん」

「はい」

「今度、うち来ない? この前の撮影のお礼もしたいし……食事くらい、ご馳走させて」

大地が一瞬、固まる。

「えっ……え、いいんですか?」

「もちろん。あなたがいてくれたから、あんな映像になったんだし。ね?」

翔子の声は柔らかくて自然だったけど、
ほんの少しだけ、その口元には“からかうような色”が混じっていた。

「旦那も喜んでたよ。……もっと攻めてよかったのに、って言ってたけど」

「えっ……えっ」

「ふふ。今度はもうちょっと大胆に、って言われちゃうかもね」

大地は赤面したまま、「……はい」としか返せなかった。

翔子はその様子を見ながら、
「うん、かわいい」と心の中で小さく呟いた。

夜のディナーと提案/夫の告白

夕方の光がリビングの窓から差し込み、ワインの液面に淡くゆらめく。
木のテーブルに並んだ料理は手の込んだものばかりで、盛りつけもどこか洒落ていた。
料理の香りと、翔子のやわらかな笑い声が、空気を穏やかに満たしていた。

「このトマトのマリネ、すごく甘いですね……」

大地が言うと、翔子はにこっと笑った。

「庭で採れたの。秀斗くんが土いじりに目覚めてね。私は横で食べる係」

「いやいや、仕込みから全部君でしょ。俺なんて水撒いてるだけだよ」

夫婦の穏やかな掛け合いに、大地は思わず笑いながらグラスを持ち上げた。
グラス越しに見える翔子の頬が、ワインの赤に照らされてほんのり紅く見えた。

翔子がグラスと食器を手に取り、立ち上がる。

「ちょっと下げてくるね」

そう言って、軽やかな足取りでキッチンへと向かう。
その後ろ姿――背中に沿う布の薄さ、揺れる髪、かすかに香るシャンプーの匂い。
何気ない所作が、大地の目には妙に印象深く映った。

彼女がキッチンの奥へと消えたあと、テーブルに静けさが降りた。

ワインをひと口飲みながら、秀斗がぽつりと切り出す。

「……大地くん」

「……はい」

「少し、変な話をするけど……驚かないで聞いてくれる?」

テーブルの上、グラス越しに見える秀斗の顔は、どこか遠くを見ているようだった。
大地は、不安を隠しきれないまま頷く。

「……俺さ、翔子が他の男と一緒にいるところを見ると、なんていうか……ゾクッとするんだよね」

「……え……?」

「嫌とか、そういうんじゃない。怒りでもない。……興奮っていうと、ストレートすぎるけど。
誰かに向けて笑ってる翔子を見ると、“いいな”って思う」

言葉が、すぐには口から出てこなかった。

「翔子にも話してある。最初は驚いてたけど、今は受け入れてくれてる。……だから、今日こうして君を呼んでる」

「……」

「何か無理をさせたいわけじゃないんだ。君がもし翔子のことを“好き”なら……
少し、そういうふうに過ごしてもらってもいいと思ってる」

秀斗の語調はあくまで穏やかだった。
でもその静けさの奥に、揺るぎないものがあった。

「……いちゃつく程度でも全然いいんだ。楽しそうにしてくれるだけで、見てて嬉しいから」

秀斗はグラスの縁をゆっくりと指でなぞりながら、目を伏せた。
頬には少し熱が差していて、それを隠すように軽く咳払いする。

「……でも、それ以上になったら……?」

「うん。もし翔子が“それでいい”って思ったなら、構わないよ。
ただし、条件がある」

秀斗はグラスを置き、落ち着いた声で続ける。

「そういう事をするのは、リビングか寝室だけ。
ほかの場所で何かしたいなら、事前に俺か翔子に相談してほしい」

「……」

「それと、NGは三つ。口へのキス、挿入、指を入れること。
でも翔子が“してもいい”って言ったら、その限りじゃない」

「……」

「最後に一番大事なこと。翔子が嫌がることは、一切NG。これは俺が言うまでもないけどね」

秀斗は一息つくと、思い出したように言葉を足した。

「それと……一応、言っておくね」

「はい……?」

「リビングと寝室にはカメラが設置してあるんだ。
映像は俺があとで確認する用で、外に出すものじゃないし、翔子も了承してる」

大地は一瞬目を丸くしたが、すぐにうつむきながら小さく頷いた。

「……はい。わかりました」

「ありがとな。無理だけはしないで。君のペースで、ね」

キッチンのほうから食器の音が鳴る。
秀斗はグラスを手に取り、最後にやさしく付け加えた。

「……重く考えすぎなくていいよ。
今日くらい、少しだけ楽しんでもらえたら、それでいい」

ちょうどそのとき、キッチンから戻ってきた翔子が
ふたりの間の空気を感じ取ったように、ゆっくりと微笑んだ。

ふたりきりの時間へ

「ふたりとも……真面目な顔して、どうしたの?
まだワインあるけど、飲む?」

テーブルに戻るその姿――気のせいか、さっきより少し、腰の動きが柔らかく見えた。
大地は、返事をするより先に、自分の心拍数を落ち着けるのに必死だった。

秀斗はグラスを置くと、ゆっくり立ち上がった。

「そうだ、明日の会議資料……プリントだけしてなかった。
ちょっと書斎で済ませてくるよ」

そう言って、軽く笑いながら部屋を出ていった。

「ね、大地くん。そんなとこで固まってないで、こっち来なよ」

ソファに座る翔子が、軽く腕を振って大地を呼んだ。
大地は少し戸惑いながらも、ゆっくりと隣に腰を下ろした。

まだ緊張気味の彼に、翔子は笑いながらワイングラスを置いた。

「なんか変な感じだね。お店じゃない場所で会うのって」

「……はい。でも、不思議で……ちょっと嬉しいです」

くすっと笑いながら翔子は足を組み直し、ふいに体を寄せる。
部屋着のシャツは気まぐれに開いていて、胸元がちらっと揺れる。

「ね、でもこの前の撮影……けっこう頑張ってたでしょ、わたし」

「はい。すごく……ほんとに、綺麗でした」

翔子は少し顔を近づけ、いたずらっぽく目を細めた。

「“綺麗”だけ? なんか他にも言い方あるでしょ~?」

そう言いながら、ふいっとグラスをテーブルに置き、
大地の太ももにぽんと手を置く。軽く、まるで何の意味もないかのように。
それでも、乗ったその手はじんわりと温かく、そして離れようとしなかった。

「……ってかさ、お店じゃないと変な感じしない?
静かだし、妙に落ち着いちゃって」

ぐいっと体を近づける。
その動きで、翔子のシャツがふわりと揺れ、髪が肩をかすめた。

大地の肩にかすかに触れる距離。けれど翔子は、気にしていないふうに話を続ける。

「大地くんって、いつもきっちりしてるよね。えらいえらい。
……でも、今くらいはちょっと力抜いてもよくない?」

そのまま大地の顔を覗き込むようにしながら、
太ももに置いた手が、自然とほんの少しだけ滑った。数センチ。それだけ。
でも、その方向が――やたら近い。

「ほら、めっちゃ緊張してんじゃん」

くすっと笑いながら、太ももをぺちぺちと軽く叩く。

「なにその反応~。やば。かわいいんだけど」

そのまま手を戻すでもなく、指先がなめらかに動く。
表情にいやらしさはない。ただ、少し酔って気が緩んでいる距離感。
けれど、確かに触れている。

翔子の視線がふと下を向いた。
ズボンの前が、明らかに盛り上がっていた。

「あ……」

▶︎ 続きはこちら:翔子の最初のプレイ【後編】

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